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測定器のトレーサビリティとは?国家標準とのつながりをわかりやすく解説

校正・品質管理

測定器のトレーサビリティとは?国家標準とのつながりをわかりやすく解説
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「トレーサビリティが取れている測定器を使ってください」——品質管理の現場では、こうした言葉を耳にすることがあります。校正証明書があれば十分だと思われがちですが、トレーサビリティという言葉が具体的に何を意味しているのか、国家標準とどうつながっているのかを正確に説明できる方は意外と多くありません。トレーサビリティの仕組みを理解しておくことは、測定結果の信頼性を取引先や監査機関に説明する際にも欠かせません。本記事では、トレーサビリティの基本的な考え方から、国家標準とのつながり、校正証明書での確認方法、そして実務でトレーサビリティを確保するためのポイントまでわかりやすく解説します。あわせて、筆者がエンジニア時代にISO9001の審査でJCSS登録番号を確認された体験談もご紹介します。

校正そのものの基礎知識については測定器の校正とは?JCSS認定校正・周期の決め方・費用相場を徹底解説もあわせてご参照ください。

トレーサビリティとは何か

測定の「出どころ」をたどれる状態のこと

トレーサビリティとは、ある測定器の測定値が、どのような校正の連鎖を経て国家標準(あるいは国際標準)に結びついているかを、切れ目なくたどることができる状態を指します。簡単に言えば、「この測定器が示す値は、どこまでさかのぼっても信頼できる基準につながっている」ということを証明できる仕組みです。

なぜ「切れ目なく」が重要なのか

トレーサビリティにおいて重要なのは、校正の連鎖が一つも途切れていないことです。例えば、校正に使った基準器自体が校正されていなかったり、校正期限が切れた基準器で校正を行っていたりすると、その時点でトレーサビリティの鎖が途切れてしまいます。どれだけ丁寧に校正作業を行っていても、さかのぼった先に信頼できる基準がなければ、トレーサビリティは成立しません。

不確かさの記載もセットで考える

トレーサビリティは、単に「校正されている」ということだけでなく、その測定値にどの程度の不確かさが伴うかが明確になっていることも含みます。測定不確かさとは?測定結果の信頼性をどう説明するかでも解説している通り、不確かさの情報がなければ、測定値がどこまで信頼できるのかを客観的に示すことができません。

リレーのバトンに例えると理解しやすい

トレーサビリティは、よく「リレーのバトン」に例えられます。国家標準というゴール地点から、校正機関の標準器、さらに現場の測定器へと、精度という名のバトンが途切れることなく受け継がれていくイメージです。途中の走者(校正機関や標準器)が校正切れを起こしていたり、信頼できない方法で校正されていたりすると、その時点でバトンが落ちてしまい、それ以降の測定器はいくら正確に見えても、公式にはトレーサビリティが取れていない状態になってしまいます。

なぜトレーサビリティが重要なのか

品質保証における役割

製品の検査や試験に使用する測定器にトレーサビリティがなければ、「本当に正しい基準で合否判定をしているのか」を証明できません。不良品を良品と判定してしまったり、逆に良品を不良品として扱ってしまったりするリスクが、トレーサビリティの欠如によって生じる可能性があります。

取引先・顧客への説明責任

特にBtoB取引では、納入先の品質保証部門から「使用している測定器のトレーサビリティ体系を示してほしい」と求められることがあります。校正証明書に記載されたトレーサビリティ情報を適切に説明できることは、取引先からの信頼を得るうえで重要な要素です。

国際的な整合性の担保

国家標準は、国際度量衡局(BIPM)を通じて国際的な基準とも比較・整合が図られています。そのため、国家標準にトレーサビリティが取れている測定器であれば、国内だけでなく、海外の取引先に対しても測定結果の信頼性を説明しやすくなります。

社内トラブル対応の切り分けにも役立つ

測定値に異常が見られた際のトラブルシューティングにおいても、トレーサビリティは役立ちます。校正履歴とトレーサビリティ体系が明確であれば、測定器自体の問題なのか、それとも測定対象や環境側の問題なのかを切り分けやすくなります。原因不明の数値のばらつきに悩んだときは、まず校正履歴とトレーサビリティ体系を確認してみるとよいでしょう。

国家標準とのつながり:校正の連鎖の仕組み

頂点にある国家計量標準

日本における国家計量標準は、産業技術総合研究所(産総研)の計量標準総合センター(NMIJ)などが維持・管理しています。長さ、質量、電圧、温度といった基本的な物理量について、国として最も精度の高い基準器(国家標準器)が整備されており、これがトレーサビリティ体系の頂点に位置します。

特定標準器から計量機関の標準器へ

国家標準器で校正された「特定標準器」が、JCSS(計量法校正事業者登録制度)に登録された校正機関の「標準器」を校正します。この校正機関がさらに、企業や工場が保有する測定器を校正する、という形で、階層構造を経て国家標準の精度が現場の測定器まで受け継がれていきます。一般的には、国家標準→特定標準器→一次標準器→二次標準器→現場の測定器、という複数の階層を経ることが多く、階層が下がるごとに、許容される誤差の範囲は少しずつ広くなっていきます。

階層が多いほど誤差が積み重なる点に注意

校正の連鎖が長くなるほど、各階層で生じるわずかな誤差が積み重なり、末端の測定器における不確かさは大きくなる傾向があります。そのため、特に高精度な測定が求められる用途では、できるだけ国家標準に近い階層で校正された基準器を使うことが望ましいとされています。自社の標準器がどの階層に位置するかを把握しておくことも、トレーサビリティ体系を理解するうえで役立ちます。

JCSS校正がトレーサビリティの証明になる理由

JCSS認定を受けた校正機関が発行する校正証明書には、校正に使用した標準器の情報や、国家標準までのトレーサビリティ体系が明記されています。JCSS校正を選ぶことが推奨されるのは、単に精度が高いからだけでなく、この「どこまでさかのぼれるか」が書類として証明される点に大きな価値があるためです。

一般の校正との違い

JCSS認定を受けていない校正サービスでも、校正自体は実施できます。しかし、その校正に使用した標準器がどこまで国家標準にさかのぼれるかが証明されていない場合、厳密な意味でのトレーサビリティは確保できません。品質保証上重要な測定器については、JCSS校正、あるいはそれに準ずるトレーサビリティ体系が明確な校正を選ぶことが望ましいといえます。

計量法における位置づけ

JCSS制度は、計量法に基づいて経済産業省が所管する校正事業者登録制度です。校正事業者が一定の技術的要件を満たしていることを国が審査・登録する仕組みになっており、登録された校正事業者が発行する証明書には、法的な裏付けのあるトレーサビリティが示されます。法規制に関わる取引や、計量法上の特定計量器を扱う場合は、この法的な位置づけを理解しておくことも重要です。

校正証明書でトレーサビリティを確認する方法

トレーサビリティ体系図の見方

JCSS校正の証明書には、多くの場合トレーサビリティ体系図(どの標準器を経由して国家標準までつながっているかを示した図)が添付されています。自社の測定器がどの校正機関の標準器で校正されたか、その標準器自体はどこで校正されているかを、図でたどって確認することができます。

認定シンボル・登録番号の確認

JCSS認定を受けた校正機関が発行する証明書には、認定シンボルとJCSS登録番号が記載されています。これらが記載されているかどうかは、トレーサビリティが制度的に担保された校正証明書かどうかを見分ける、最もわかりやすいポイントです。

校正証明書は適切に保管・管理する

校正証明書そのものを紛失してしまうと、トレーサビリティを証明する手段を失ってしまいます。測定器管理台帳の作り方で紹介しているような管理の仕組みを整え、証明書を測定器ごとに整理して保管しておくことをおすすめします。

不確かさの数値もあわせてチェックする

校正証明書には、校正結果とともに拡張不確かさの数値が記載されています。この数値が、自社の求める測定精度に対して十分小さいかどうかを確認することも、トレーサビリティを実務に活かすうえで欠かせないポイントです。不確かさが大きすぎる校正結果では、いくらトレーサビリティ体系が明確であっても、求める精度での判定には使えない場合があります。

トレーサビリティが取れていない場合のリスク

監査・審査での指摘

ISO9001をはじめとする品質マネジメントシステムの審査では、使用している測定器のトレーサビリティが確認されます。校正記録が不十分であったり、校正に使用した機関のトレーサビリティ体系が不明確であったりすると、不適合として指摘を受ける可能性があります。

取引先からの信頼低下

特に自動車・医療機器・航空宇宙といった分野では、サプライチェーン全体でトレーサビリティの確保が強く求められます。トレーサビリティが不明確な測定器を使用していることが判明すると、取引先からの信頼を損ない、取引継続に影響する可能性もあります。

不良流出時の原因究明が困難になる

万が一、品質問題が発生した際、使用していた測定器のトレーサビリティが明確であれば、「測定自体に問題があったのか」「製造工程に問題があったのか」の切り分けがしやすくなります。トレーサビリティが不明確だと、原因究明そのものが難航してしまうことがあります。

輸出入取引における障壁

海外の取引先や認証機関は、日本国内以上にトレーサビリティの明確さを重視する傾向があります。特に自動車・医療機器・航空宇宙分野の海外顧客との取引では、ISO/IEC 17025の認定を受けた校正機関による校正を求められることもあり、トレーサビリティ体系が不明確なままでは、新規取引の開始自体が難しくなるケースもあります。

トレーサビリティを確保するための実務ポイント

JCSS認定校正機関を選ぶ

トレーサビリティを重視する測定器については、JCSS認定を受けた校正機関に依頼することが基本です。依頼先を選ぶ際は、対象となる測定器の校正範囲(測定量・測定範囲)がJCSS認定の範囲に含まれているかもあわせて確認しましょう。

校正周期を守り、記録を残す

トレーサビリティは、校正を一度行えば永続するものではありません。測定器は経年劣化によって徐々に精度が変化するため、定められた周期で校正を継続し、その記録を残していくことで、トレーサビリティが継続的に確保されている状態を維持できます。

社内のトレーサビリティ体系を文書化しておく

どの測定器が、どの校正機関によって、どのような周期で校正されているかを、社内文書として整理しておくと、監査や取引先からの問い合わせにも迅速に対応できます。測定器ごとの校正履歴を一元管理できる台帳を整備しておくことが、実務上の第一歩になります。

中古測定器を導入する際の確認ポイント

中古の測定器を導入する場合も、トレーサビリティの観点は重要です。前の所有者がどのような校正を行っていたか、直近の校正証明書が残っているかを確認し、必要であれば導入時に改めてJCSS校正を依頼することで、トレーサビリティ体系を途切れさせずに運用を始めることができます。校正証明書が付属していない中古測定器であっても、導入時に校正を行えば、そこから新たにトレーサビリティ体系をスタートさせることができるため、過度に心配する必要はありません。

測定器の選定段階からトレーサビリティを意識する

新しく測定器を導入する際は、その機種がJCSS校正に対応しているかどうかも選定基準に加えておくと、後々のトレーサビリティ確保がスムーズになります。マイナーなメーカーや特殊な機種の場合、校正に対応できる機関が限られていたり、国内での校正自体が難しかったりすることがあるため、事前に確認しておくと安心です。

オシロスコープやデジタルマルチメーター、スペクトラムアナライザー、ネットワークアナライザーのような汎用性の高い測定器は、多くのJCSS認定校正機関で対応しているため、トレーサビリティを確保しやすい機種といえます。一方でレーザー顕微鏡やファンクションジェネレーターのような特殊な機種は、対応できる校正機関が限られることがあるため、導入前に確認しておくとよいでしょう。

ISO9001とトレーサビリティの関係

ISO9001では、「監視及び測定のための資源」に関する要求事項の中で、測定の妥当性を実証する必要がある場合、国際計量標準又は国家計量標準にトレーサブルな測定機器を校正又は検証することが求められています。つまり、トレーサビリティの確保は、ISO9001の認証を維持するうえでも直接関わってくる要素です。審査前の社内チェックでは、測定器の校正記録とあわせて、トレーサビリティ体系が説明できる状態になっているかも確認しておくとよいでしょう。

審査では、審査員から「この測定器の校正記録を見せてください」「この校正機関はどのようなトレーサビリティ体系になっていますか」といった質問を受けることがあります。校正証明書をその場ですぐに提示できる体制を整えておくとともに、担当者がトレーサビリティの基本的な考え方を説明できるようにしておくことが、スムーズな審査対応につながります。測定器管理台帳の作り方で紹介している台帳形式を使えば、校正機関名やJCSS登録番号もあわせて一覧化しておくことができ、審査対応がさらにスムーズになります。

💡 現場での体験談

筆者がエンジニアとして働いていた頃、定期的にISO9001の内部監査・審査が行われており、審査員から「この校正機関のJCSS登録番号を教えてください」と聞かれたことがありました。校正証明書自体はきちんと保管していたのですが、登録番号だけを一覧で整理していなかったため、その場で該当する証明書を探し回ることになり、現場は軽くバタバタした雰囲気になったのを覚えています。証明書があることと、必要な情報をすぐに取り出せることは別だと痛感した出来事で、それ以降は校正機関名とJCSS登録番号を台帳にまとめておくようになりました。

よくある質問

社内校正だけでもトレーサビリティは確保できますか?

社内で校正を行う場合でも、校正に使用する基準器自体がJCSS校正などを受けており、国家標準までのつながりが明確であれば、トレーサビリティは確保できます。基準器の校正状況を定期的に確認することが重要です。

トレーサビリティが取れていない測定器は使ってはいけませんか?

用途によります。品質保証や検査に関わらない簡易的な確認用途であれば、必ずしも厳密なトレーサビリティは求められません。ただし、製品の合否判定など重要な用途で使用する場合は、トレーサビリティが明確な測定器を使用することが推奨されます。

校正証明書にトレーサビリティ体系図が付いていない場合はどうすればよいですか?

校正を依頼した機関に、トレーサビリティ体系を示す資料を発行してもらえるか問い合わせてみましょう。JCSS認定校正機関であれば、通常は証明書の中にトレーサビリティに関する情報が含まれています。

海外から輸入した測定器もトレーサビリティを確保できますか?

海外メーカー製の測定器であっても、国内のJCSS認定校正機関で校正を受ければ、日本の国家標準にトレーサブルな状態にすることができます。国際的な整合性も図られているため、海外取引先への説明にも対応しやすくなります。

古い測定器はトレーサビリティを確保しにくいですか?

機種が古いこと自体は、トレーサビリティの確保に直接影響しません。校正可能な状態であれば、古い機種でも問題なくJCSS校正を受けることができます。ただし、著しく古く校正対応が難しい場合は、買い替えも含めて検討するとよいでしょう。

社内の複数拠点で同じトレーサビリティ体系を維持するにはどうすればよいですか?

拠点ごとに異なる校正機関を利用していると、トレーサビリティ体系や校正周期にばらつきが生じやすくなります。可能であれば、グループ全体で利用する校正機関や校正周期の基準を統一し、台帳の様式もそろえておくことで、拠点間の管理レベルを均一に保つことができます。

まとめ

トレーサビリティとは、測定器の値が国家標準までの校正の連鎖によって切れ目なく裏付けられている状態のことです。JCSS校正を選ぶことで、このつながりが証明書として明確に示され、取引先や監査機関への説明がしやすくなります。校正証明書の保管や校正周期の管理を徹底し、社内のトレーサビリティ体系を文書化しておくことが、実務上の信頼性確保につながります。

測定器買取センターでは、校正状況や使用状況を踏まえた測定器の査定・買取もご相談いただけます。買取相場の決まり方もあわせてご確認いただきつつ、トレーサビリティの観点から機器の入れ替えを検討されている場合は、無料査定よりお気軽にお問い合わせください。

「難しそう」と感じる言葉ではありますが、仕組みを一度理解してしまえば、校正証明書を見る目も変わってきます。社内で測定器を管理する立場にある方は、ぜひ一度、手元の校正証明書を見ながらトレーサビリティ体系をたどってみることをおすすめします。

監修者

松本 悠利(Ekuipp株式会社 代表取締役)
2018年の創業以来、中古工作機械・測定器の買取事業を運営し、現場での査定実績をもとに本記事の内容を監修しています。詳しいプロフィールは会社情報をご覧ください。

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