

「5GやWi-Fiの評価に使うベクトル信号発生器を選びたいが、どの仕様を重視すればよいかわからない」「プロジェクトが終わって使わなくなったベクトル信号発生器、いくらくらいで売れるのだろう」——ベクトル信号発生器は、無線通信機器の開発・評価に欠かせない高周波測定器であり、新品では数百万円から1,000万円を超えることも珍しくない、測定器の中でも特に高額な部類に入る機器です。本記事では、ベクトル信号発生器を選ぶ際に押さえておきたい仕様のポイント、用途別の選び方、主要メーカーの特徴、そして買取相場を左右する要素と相場感まで、あわせて解説します。あわせて、筆者が原油探査機器の開発で、高温下の信号品質をアイパターンで確かめた経験もご紹介します。
測定器全般の買取相場の考え方については測定器の買取相場はどう決まる?高く売るための5つのポイントもあわせてご参照ください。
ベクトル信号発生器とは
ベクトル信号発生器(VSG:Vector Signal Generator)とは、高周波の搬送波に、デジタル変調をかけた信号を高い精度で出力できる信号発生器です。携帯電話や無線LANなどのデジタル無線通信では、信号の振幅と位相の両方を使って情報を運んでおり、この振幅と位相の組み合わせを「I/Q信号」として扱います。ベクトル信号発生器は、内部のI/Q変調器によってこのI/Q信号を搬送波に乗せることで、実際の通信規格に沿った変調信号を再現できるのが最大の特徴です。
開発中の受信機に規格どおりの信号を入力して受信感度を評価したり、パワーアンプなどの部品に変調信号を入れて歪み特性を確認したりと、無線通信機器の研究開発から製造ラインの検査まで、幅広い工程で使われています。
💡 現場での体験談
筆者は以前、原油探査に使われる機器の開発エンジニアをしていた頃、回路に信号を入力して、アイパターンがきれいに出るかを確かめる実験を行っていました。アイパターンとは、デジタル信号の波形を何回分も重ねて表示したもので、目のような形がくっきり開いているほど、0と1を正しく読み取れる品質の良い信号であることを示します。ところが、試験温度を上げていくと、その目が少しずつ閉じ始めました。地中の高温環境で使われる機器では、常温で信号がきれいに出ていても、それだけでは合格とはいえません。既知の信号を入力し、温度などの条件を変えながら信号品質を確かめていくという手順は、信号発生器を使った評価の基本的な考え方そのものです。
アナログ信号発生器との違い
アナログ信号発生器は、純度の高い正弦波(CW信号)を出力することに主眼を置いた機種で、変調はAM・FM・PMといったアナログ変調までの対応が一般的です。局部発振器の代わりとして使う、フィルターや増幅器の周波数特性を調べるといった用途では、アナログ信号発生器で十分なケースも少なくありません。一方で、QPSKやQAM、OFDMといったデジタル変調信号が必要な評価では、ベクトル信号発生器が必須になります。価格もベクトル信号発生器のほうが大幅に高く、同じメーカーの同世代機種でも、変調機能の有無で価格帯が大きく変わります。
ファンクションジェネレーターとの違い
ファンクションジェネレーターの選び方と買取相場で解説しているファンクションジェネレーターは、比較的低い周波数帯で正弦波・矩形波・三角波といった多様な波形を出力する機器です。ベクトル信号発生器はGHz帯の高周波を扱い、出力レベルの確度や信号の純度、変調精度といった、無線通信の評価に必要な性能に特化しています。同じ「信号を出す測定器」でも、用途も価格帯もまったく異なる機器と考えたほうがよいでしょう。
ベクトル信号発生器と組み合わせて使う測定器
ベクトル信号発生器は単体で使うよりも、受信側の測定器と組み合わせて評価系を構成するのが一般的です。スペクトラムアナライザーの選び方と買取相場で紹介しているスペクトラムアナライザーやシグナルアナライザーと組み合わせれば、ベクトル信号発生器で作った変調信号を被測定物に入力し、その出力の歪みやスプリアスを観測するという評価が可能になります。
また、フィルターやアンテナなど高周波部品そのものの特性評価には、ネットワークアナライザーの選び方と買取相場で解説しているネットワークアナライザーが使われます。無線機器の開発現場では、ベクトル信号発生器・シグナルアナライザー・ネットワークアナライザーの3つが、高周波評価の中核としてセットで揃えられていることが多く、設備更新や拠点の統廃合のタイミングでまとめて手放されるケースもよく見られます。
ベクトル信号発生器を選ぶ際の主要チェックポイント
ベクトル信号発生器は、同じシリーズでも周波数上限やオプション構成によって価格が数倍変わることがある機器です。必要な仕様を整理したうえで、過不足のない構成を選ぶことが重要です。
周波数範囲
最も基本となる仕様で、評価したい通信規格の周波数帯をカバーしているかを確認します。携帯電話のサブ6GHz帯や無線LANの評価であれば6GHz程度まで、無線LANの6GHz帯やレーダー関連まで視野に入れるとさらに上の周波数帯への対応が必要になります。ミリ波帯の評価では数十GHzに対応した上位機種や、周波数を変換するアップコンバーターとの組み合わせが求められます。多くの機種では周波数上限がオプションで決まっており、同じ型番でも上限周波数によって価格が大きく異なる点に注意が必要です。
変調帯域幅(RF変調帯域・ベースバンド帯域)
一度に出力できる変調信号の帯域の広さを示す仕様です。通信規格の世代が進むにつれて、1チャンネルあたりに使う帯域幅は広がっており、5G NRや最新の無線LAN規格では、従来よりもはるかに広い変調帯域が求められます。古い世代の機種は周波数範囲が十分でも、変調帯域幅が足りずに最新規格の信号を出せないことがあるため、評価対象の規格が要求する帯域幅を必ず確認しておきましょう。
出力レベル範囲と確度
ベクトル信号発生器は、受信感度の評価のように非常に小さな信号を正確に出す用途と、パワーアンプの評価のように大きな信号を出す用途の両方で使われます。最大出力レベルと最小出力レベル、そしてその範囲で出力レベルがどれだけ正確に設定どおりになるかという確度は、評価の信頼性に直結します。大きな出力が必要な場合は、高出力オプションの有無も確認ポイントになります。
位相雑音・スプリアス
信号の純度を示す仕様で、搬送波の周辺にどれだけ余分なノイズや不要な信号成分が含まれているかを表します。位相雑音が大きいと、高次の変調方式で信号品質が劣化したり、隣接チャンネルへの漏洩を正しく評価できなかったりする原因になります。レーダーや衛星通信など、信号純度への要求が厳しい分野では特に重視される仕様で、上位機種ほど優れた位相雑音性能を持っています。
変調精度(EVM)
ベクトル信号発生器自体が出力する変調信号が、理想的な信号からどれだけずれているかを示すのがEVM(エラーベクトル振幅)です。被測定物の性能を評価する際、信号源のEVMが十分に小さくなければ、被測定物の劣化なのか信号源の誤差なのかを切り分けられません。高次の多値変調を使う最新規格ほど、信号源にも高い変調精度が求められます。
任意波形メモリと信号作成ソフトウェア
規格に準拠した複雑な変調信号は、専用の信号作成ソフトウェアで波形データを作り、ベクトル信号発生器内部の任意波形メモリに読み込んで再生するのが一般的です。メモリ容量が大きいほど長い波形を連続して再生でき、評価の自由度が高まります。また、どの通信規格の信号作成ソフトウェアに対応しているかは、メーカーや機種ごとに異なるため、導入前に確認が必要です。
チャンネル数・MIMO対応
複数のアンテナを使って通信するMIMO方式の評価では、位相のそろった複数の信号を同時に出力する必要があります。1台に2系統の信号出力を備えた機種や、複数台を同期させて運用できる機種もあり、評価したい方式に応じて構成を検討します。
用途別に見る選び方
無線通信機器の研究開発
最新の通信規格に対応した評価を行う研究開発用途では、広い変調帯域幅と優れたEVM、豊富な信号作成ソフトウェアへの対応が重視されます。将来の規格追加にも対応できるよう、上位クラスの機種を選んでおくと長く使い続けられます。
製造ラインでの検査
量産品の検査では、必要な規格の信号を安定して出力できることに加え、切り替え速度の速さや、自動検査システムに組み込みやすいリモート制御への対応が重視されます。研究開発ほどの高性能は求められないことも多く、ミドルクラスの機種や、ラックに組み込みやすい薄型の機種が選ばれる傾向があります。
レーダー・航空宇宙・防衛分野
パルス変調の性能や位相雑音、高い周波数への対応が重視される分野です。要求される性能が高い分、上位機種や特殊なオプションを搭載した構成が選ばれることが多く、機器の価格も高額になりやすい傾向があります。
主要メーカーの特徴
キーサイト・テクノロジー
キーサイト・テクノロジーは、旧ヒューレット・パッカード、アジレント・テクノロジーの計測部門の流れをくむ米国の大手計測器メーカーです。ベクトル信号発生器では、汎用性の高いMXGシリーズやコストを抑えたEXGシリーズ、高い信号純度を持つPSGシリーズなどを展開しており、各種通信規格に対応した信号作成ソフトウェアも充実しています。国内でも導入実績が非常に多く、中古市場でも流通量・需要ともに安定しています。アジレント時代のESGシリーズなど、旧世代の機種も現役で使われている例が見られます。
ローデ・シュワルツ
ドイツの計測器メーカーであるローデ・シュワルツは、高周波・無線通信分野で世界的に高い評価を得ています。上位機種のSMW200Aは、広い変調帯域や複数系統の信号出力に対応し、最新規格の研究開発で多く使われています。ミドルクラスのSMBV100Bなども含め、ラインナップの幅が広く、機能を後から追加できるオプション体系が特徴です。
アンリツ
国内メーカーのアンリツは、通信計測の分野で長い歴史を持ち、携帯電話関連の評価機器で特に高い実績があります。ベクトル信号発生器ではMG3710シリーズなどを展開しており、国内メーカーならではのサポート体制や日本語での技術資料の充実が、導入時の安心材料として評価されています。
ベクトル信号発生器の買取相場を左右するポイント
周波数上限・変調帯域などのオプション構成
ベクトル信号発生器の査定で特に大きく影響するのが、オプションの構成です。同じ型番でも、周波数上限や変調帯域幅、任意波形メモリの容量、高出力機能などがオプションで決まっている機種が多く、どのオプションが有効になっているかで本体の価値が大きく変わります。査定を依頼する際は、本体のシステム情報画面などでインストール済みのオプション一覧を確認し、型番とあわせて伝えると、より正確な査定につながります。
信号作成ソフトウェアのライセンス
各種通信規格の信号を作るためのソフトウェアライセンスが本体に付いている場合、その内容も評価の対象になります。ライセンスの証書や管理番号などの書類が残っていれば、あわせて保管しておきましょう。
世代・年式と対応規格
ベクトル信号発生器は通信規格の進化と密接に結びついた機器であり、最新規格に対応できる世代かどうかが需要を大きく左右します。旧世代の機種でも、従来規格の評価や教育用途での需要は一定程度ありますが、最新世代と比べると相場は落ち着く傾向があります。
校正証明書・動作状態
他の測定器と同様に、校正証明書の有無や、実際に電源を入れて正常に信号が出力されるかどうかも査定に影響します。測定器の校正とは?で解説しているとおり、校正記録は機器の状態を客観的に示す資料になるため、直近の校正証明書があれば査定時に一緒に提示しましょう。
ベクトル信号発生器の買取相場の目安
ベクトル信号発生器の買取価格は、機種・オプション構成・状態によって大きく幅がありますが、大まかな価格帯のイメージとして以下のように整理できます。
旧世代クラス(数世代前の汎用機種)
アジレント時代のESGシリーズなど、数世代前の汎用機種は、流通量が比較的多いこともあり、査定額は数万円〜数十万円程度の水準になることが多いクラスです。変調帯域や対応規格は限られますが、動作状態が良好でオプションが充実していれば、評価が上乗せされることがあります。
現行ミドルクラス(汎用的な現行世代機種)
現行世代の汎用的なベクトル信号発生器は、オプション構成や年式次第で数十万円〜百万円台の査定になることがあります。周波数上限が高い構成や、変調帯域・任意波形メモリを拡張した構成ほど、高い評価につながりやすくなります。
ハイエンドクラス(広帯域・多系統の上位機種)
研究開発向けの上位機種で、広い変調帯域や複数系統の出力を備えた構成のものは、状態や年式次第で数百万円規模の査定がつくこともあります。最新規格の評価に使われている現行機種ほど需要が高く、相場も安定しやすい傾向があります。
あくまで目安であり、実際の金額はメーカー・型番・オプション構成・状態・付属品によって大きく変動します。正確な金額を知りたい場合は、型番とオプション構成を伝えたうえで個別に査定を受けることをおすすめします。
導入前に確認しておきたいポイント
評価に必要なオプションを整理する
ベクトル信号発生器は、後からオプションを追加できる機種も多い一方で、ハードウェアに関わるオプションは追加できない、または追加費用が高額になる場合があります。導入前に、評価したい規格の周波数帯・変調帯域・出力レベルを整理し、必要なオプションを漏れなく選んでおくことが大切です。
中古品はオプションと校正状態を確認する
高額な機器であるため、中古品での導入を検討する企業も少なくありません。中古品を導入する場合は、必要なオプションが有効になっているか、校正が実施されているかを必ず確認しましょう。オプションが不足していると、結局追加費用がかかって新品と大差ない出費になることもあります。
高く売るための注意点
測定器の買取相場で紹介しているポイントに加え、ベクトル信号発生器特有の注意点もあります。
RFコネクタの状態を確認する
高周波の出力端子であるRFコネクタは、ベクトル信号発生器の性能を左右する重要な部分です。コネクタの変形や摩耗、内部の汚れがあると、信号の反射が増えて性能が低下するため、査定にも影響します。保護キャップが付属している場合は、取り付けた状態で保管しておきましょう。
付属品・書類をそろえておく
電源ケーブルやラックマウント金具、オプションのライセンス書類、校正証明書など、導入時に付属していたものはできるだけそろえておくと、査定時にプラスに働くことがあります。
関連する測定器とまとめて売却する
スペクトラムアナライザーやネットワークアナライザーなど、評価系として一緒に使っていた高周波測定器がある場合は、まとめて査定に出すことで運搬コストの面で有利な条件になることがあります。
ベクトル信号発生器を長く使うためのポイント
出力端子に外部から電力を入れない
ベクトル信号発生器の出力端子に、パワーアンプの出力や他の信号源の大きな電力が逆流すると、内部の出力回路が損傷するおそれがあります。評価系を組む際は、アッテネーターやアイソレーターを適切に入れるなど、逆電力から出力端子を保護する工夫が欠かせません。
コネクタは適切なトルクで接続する
RFコネクタを締めすぎたり、斜めに差し込んだりすると、コネクタ自体の寿命を縮める原因になります。高周波の測定現場では、トルクレンチを使って規定のトルクで接続するのが基本です。
保管環境と定期的な校正
測定器の保管方法・注意点で紹介している温度・湿度・静電気対策は、ベクトル信号発生器にもそのまま当てはまります。また、出力レベルや周波数の確度を維持するため、定期的な校正を実施し、記録を残しておくことが、機器の信頼性と将来の資産価値の両方を守ることにつながります。
よくある質問
古い世代のベクトル信号発生器でも売れますか?
動作する状態であれば、旧世代の機種でも査定は可能です。従来規格の評価や教育用途での需要もあるため、まずは型番とオプション構成を伝えて査定に出してみることをおすすめします。
オプションの内容がわからない場合でも査定してもらえますか?
査定は可能です。多くの機種では本体の画面でインストール済みのオプションを確認できますので、確認できる範囲で情報をお伝えいただければ、より正確な査定につながります。
校正証明書がなくても査定してもらえますか?
校正証明書がなくても査定は可能です。ただし、証明書がある場合のほうが評価は高くなりやすいため、手元に残っていれば一緒にご提示ください。
故障して信号が出力されないベクトル信号発生器も売れますか?
故障品であっても、機種によっては部品取りなどの需要があるため、査定の対象になることがあります。自分で分解や修理を試みると状態を悪化させることがあるため、まずは状態をそのまま伝えてご相談ください。
スペクトラムアナライザーなどとセットで売却すると有利になりますか?
個別に売却するよりも、まとめて売却することで運搬コストの面で有利になることがあります。評価系として一緒に使っていた測定器があれば、まとめて査定をご依頼ください。
まとめ
ベクトル信号発生器を選ぶ際は、周波数範囲・変調帯域幅・出力レベル・位相雑音・変調精度といった仕様を、評価したい通信規格や用途に照らして確認することが大切です。オプション構成によって性能も価格も大きく変わるため、必要な機能を整理したうえで構成を決めることが重要です。
買取相場においても、オプション構成が査定額を大きく左右します。加えて、世代・対応規格、校正証明書の有無、動作状態、付属品の状態が評価のポイントになります。
測定器買取センターでは、キーサイト・テクノロジー、ローデ・シュワルツ、アンリツをはじめ、幅広いメーカー・機種のベクトル信号発生器を査定しております。プロジェクトの終了や設備更新で使わなくなったベクトル信号発生器がありましたら、評価系として一緒にお使いだった高周波測定器とあわせて、お気軽にご相談ください。
